はじめに
元気に日々暮らせることは幸せなことですが、人はだんだん年を取っていったり、様々な病気で日常で若い頃のように元気に歩いたり暮らしたりすることが難しくなってくることがあります。クリニックではそのような患者さまのために訪問診療をさせていただいています。
私のクリニックで行っている訪問診療について簡単に説明させていただきます。
訪問診療は比較的新しい医療分野のためクリニックや医療機関によって医療内容や治療方針が異なることがありますので以下に書かれている内容が他の医療機関とは相違のあることを先にご了承下さい。
訪問診療とは原則として月に2回患者さんの住んでいらっしゃる場所に私と看護師がお邪魔して診察をして体調について話を伺い、必要に応じて採血や検査を行い、患者さんの体調管理の手助けをしていくものです。昔のいわゆる往診と呼ばれていたものです。現代では往診は体調が急に悪くなった時に臨時に行う訪問することを指し、定期的にお宅へ伺うものが訪問診療と言っています。
訪問診療を希望される方、ご家族の方はお気軽にクリニックの方へ相談をして下さい。聞きたい内容が簡単なものであればクリニックへのお電話でも結構です。より詳しい具体的な話や急いで訪問診療の開始を希望したい方は通常30分から1時間ぐらいの話を伺いますので電話で相談日時を決めてその日に来院していただくことになります。
そこで説明、相談させていただきたいことは、一般的には患者さんの名前や年齢、住んでおられる住所、担当のケアマネさんの名前、現在の病名とその病状、飲んでいる薬やおしっこの管が入っているのかどうか、健康状態の見通し、看取りを希望されているのかどうか、ご家族の治療に対する疑問や希望などの情報を元に訪問診療という枠組みの中でかなえられること、頑張ればできそうなこと、かなえるのに必要な人員(訪問看護師さんや訪問介護士さんの助けがいるかどうか)の予測、そしてどうやっても訪問診療ではあきらめなければならないことなどを説明させていただきます。
もし現在かかっている医療機関での検査データや紹介状などを持参していただけますとより正確な方針を決めるのに助かります。
一般的な治療費について
普通の通院治療だと1回通院するごとに会計をして受付さんでお支払いしていただくことがほとんどですが、訪問診療は月ぎめで支払いをしていただいています。1カ月の間に訪問診療を何回したか、臨時の往診を何回したか、何の検査をしたか、点滴を何を何回したかを集計して月末に合計して患者さんないしご家族の方に支払っていただく形です。
支払い方法はクリニックのそばに住んでいる方は翌月始めに来てもらって受付さんで会計していただく方法と翌月に自動引き落としで口座から引き落とす方法を選んでもらっています。
治療費の金額ですが患者さんの病状が軽症なのか重症なのか、おしっこの管が入っているかいないか、褥瘡(床ずれ)があるかないか、酸素を必要とするのか、癌や心不全などの余命を左右する病気を持っているのかで多種多様になります。正直な所、これで厚い本が書けるくらいなので具体的にはすぐには残念ながら答えられません。が、当クリニックでは後期高齢者で一割負担の方の場合3000円から9000円くらいのことが多いです。病状の悪化で訪問回数が増えたり、緊急の往診が増えたりすると高額となり、場合によっては各ご家庭の所得で決められた医療費上限に達する場合も時々あります。(2割負担や3割負担の方だと病状と治療内容によってはまれに合計が3万~4万円になることもあります。)
注意していただきたいのは上記の治療費は当クリニックへ支払っていただく訪問診療のみの金額であり、実際には患者さんの薬代、カテーテル代、訪問看護サービスや訪問介護サービスを受けた場合にはそのお金が別にかかります。くれぐれもご注意下さい。
具体的なケース
病状が軽く安定している方の場合
このケースは、元々高血圧や脳梗塞後遺症や慢性心不全で高コレステロール血症のような安定して通院していた方が年齢によって通院困難になったり、家族の方も高齢化で車に乗せて来院して下さることが無理になってきた場合です。
訪問診療でやることは、通常は月に2回の訪問診療をさせていただきます。(病状が極めて安定している場合は月1回も選択できます。)
訪問診療時間は15~20分程度です。1~2か月に1回採血をさせていただき病状を判断します。
訪問診療での治療費は1割負担の後期高齢者の方の場合3000円から5000円程度が多いです。
(往診や検査内容によっては金額は変化します。)
退院した直後で病状が不安定な場合
このケースは直前まで入院されていて退院後の通院に困難が予想されるため訪問診療を希望される場合です。
入院の原因になった病気や元々の病気にもよりますが、入院中は部屋の温度や湿度、食事の栄養や塩分や食べやすさや看護、介護に至るまで24時間管理されていた患者さんが退院直後の自宅や施設では病院のような厳格な管理体制から緩やかな環境へ変わるため、落ち着いていた病状が再度悪化することを防ぐために訪問診療でも注意するポイントを増やす形になることが多いです。また内服内容も微調整が必要になることもしばしばあります。
訪問診療は2週間に1回を予定しますが、医療機関からの紹介状や検査データで病状の変化を前もって予測しながら対応します。従って最初の1カ月は週1回に訪問診療させてもらったり、訪問看護サービスと協力しながら対応します。採血回数なども2週間に1回行う場合があります。
訪問診療での治療費は1割負担の後期高齢者の方の場合、6000円から9000円程度が多いです。とくに最初の1カ月に週1回の訪問診療を行ったりした場合は医療費限度額の12000円になることもあります。(これ以外にも訪問看護サービス利用料や薬剤費がかかります。)
癌の進行状態や近い未来の看取りの場合
このケースはさまざまな癌の末期の状態やもしくは脳梗塞後遺症や心不全が極めて重度で根本的に栄養摂取ができないなどがあり、回復の見込みが難しいため最後は自宅で迎えさせてあげたいというのが目的の場合です。
看取りは訪問診療の中でも重要な部分であり、きちんとした病状の把握と癌などの痛み、心不全での胸の苦しさなどをどのように軽減させてあげられるかの話し合いが重要となります。紹介状だけではなく、場合によっては治療を行っていた病院へ赴き入院中の治療スタッフとの情報交換が必要となる場合があります。
訪問診療は病状にもよりますが、たいてい週1回が基本になります。場合によっては週2回になる場合もあります。患者さんの病状の把握と褥瘡やカテーテルの管理のために訪問看護サービスの併用がほぼ必須となります。呼吸苦を取るために在宅酸素装置などの設置が必要になったり、24時間の毎日の点滴も実施する場合もあります。
訪問診療の治療費は訪問回数が多くなることやどうしても緊急往診の頻度が増大するため多くの患者さんの場合、医療費上限の金額となることが多くなります。1割負担の後期高齢者の方の場合12000円上限になります。また3割負担の方はもっと高額になります。これ以外にも在宅酸素装置の使用料(月5000円程度)、訪問看護サービス利用料、在宅介護サービス利用料が別にかかります。
このケースの場合、病状の急変や症状の悪化が多くなるためそれらに対する患者本人さんへの助言のみだけではなくご家族の方への説明もしっかりさせていただくことになります。
看取りを希望されるご家族の方へご理解いただきたいこと
最近は「看取り」を含めた訪問診療が多くなってきております。看取りというのは患者さんがさまざまな病気で回復が困難な状態にある方が自宅で人生を全うし死を迎えることを指します。当クリニックでも何人もの患者さんの看取りをさせていただきました。看取りはクリニック、ケアマネさん、訪問看護師さんの方々と相談をしっかりしなければならない重要なものですので必ずご家族の方と相談をしながら方針を決定させていただきます。